2019年05月22日
社会・生活
研究員(米国コロンビア大学留学中)
倉浪 弘樹
「人種のサラダボウル」といわれる米国の中でも、多様性が著しいニューヨーク市。市の総人口約860万人のうち、実に300万人超が移民である。その比率は37%に達し、全米平均の14%を大きく上回る。だからこの街には異なる文化を持つ人々が集まり、それぞれに個性を主張する。この多様性こそがニューヨーク市の活力の源泉となり、それが全米社会をけん引している。
ニューヨーク市の中でも、とりわけ多彩で優秀な人材が集まるのが、世界トップクラスの大学の一つコロンビア大学。中心街のマンハッタンにあり、その土地柄からか非常にリベラルな校風が特徴だ。
この大学のビジネススクールの経営学修士(MBA)課程に2018年に入学した学生のうち、実に42%を留学生が占める。筆者も現在、客員研究員としてコロンビア大学に在籍し、ビジネススクールの講義を聴講している。連日、日本の大学には無い独特の活気に満ちた雰囲気を肌で感じている。
例えば、30人程度の学生が出席する大教室の授業。講師が質問を投げ掛けると、学生たちはわれ先にと手を挙げる。10分ほどの質疑応答の間、10人以上が発言し、アイデアが嵐のように教室内を駆け巡る。講師は気になる発言があると、「Elaborate it.(詳しく聴かせて)」と促す。それにより、「なぜそう考えるのか」を大切にする、異文化コミュニケーションの基礎が身に付く。
もちろんユーモアも忘れない。ある講師は、遅刻してきた学生に対し、「What's your talent?(特技は何?)」と声をかける。ペナルティーとして、その特技を披露させるのだ。これに対し、学生は歌ったり、ポエムを読んだり、ジャグリングをしたり...。教室の張り詰めた空気は一転、和やかなムードになる。これをきっかけに、学生同士の交流も深まる。
学生同士の交流は大学も重視しており、多くの講義にグループワークをとり入れている。学生たちは自主的に図書館に集まり、課題に取り組む。学期中の図書館は深夜まで開いており、学生グループでいつも満席。お互いに異文化を学び、卒業していく。
しかし最近、卒業生を取り巻く環境が急速に変わりつつある。留学生が卒業しても、米国での就職が難しくなっているのだ。背景には、トランプ大統領が2017年4月に外国人労働者向けのビザ「H-1B」の審査を強化したことがある。今のところ発行数に変化はないが、「今後定数が削減されるのでは」との憶測も飛ぶ。MBA取得者を求める米国の企業が、求人を米国市民や居住者に限定するケースも増えているという。
こうした現政権の保守的な政策は、米国留学を希望する学生にも影響している。米国国際教育研究所(IIE)の報告書によれば、 2017~18年度、全米で大学へ入学した留学生数は学部生、大学院生ともに2年連続で減少したという。米国社会を支えてきた多様性に陰りが見え始めているのだ。「米国第一」の政策が、国力を削ぐ結果を招くとすれば、何とも皮肉なものだ。
コロンビア大学
(写真)筆者
倉浪 弘樹